「28日後…(2002)」脚本のアレックス・ガーランド初監督作品。主演は「リリーのすべて(2015)」「トゥーム・レイダー(2018)」にも出演したアリシア・ヴィキャンデルが美しきAIロボットのエヴァを演じます。
CGスタジオのDouble Negativeが各シーンのアリシアの身体の一部をCGでロボットに置き換え、「インセプション」「インターステラー」に続きアカデミー賞を受賞しました。
登場人物4人、密室が舞台という絞り込んだ設定の中で、CGやロボットといったSi-Fi好きにもたまらない見どころ満載のSFスリラーとなっています。
作品情報
監督:Alex Garland
出演:Alicia Vikander
Domhnall Gleeson
Oscar Isaac
Sonoya Mizuno
トレーラー
あらすじ
検索エンジン最大手のブルーブックに勤めるケイレブは、社内公募に当選し、普段姿を見せない億万長者のCEOネイサンのパーティへ招待される。人里離れた山奥の別荘で待っていたのはパーティではなく、ネイサンが秘密裏に開発したAIをテストしてほしいという依頼だった。会話をし、人間のように感じれば合格、機械だと感じれば不合格の判断をするという。ケイレブによるエヴァをテストするセッションが始まった…。
感想(ネタバレ)
この映画のキモと言ったら、なんといってもAIアンドロイドのエヴァの美しさですよね。

アリシア・ヴィキャンデル演じるエヴァのピュアな雰囲気や表情、愛らしい外見、そして高精細で美しいアンドロイドのボディ。これらがこの映画を高クオリティたらしめています。エヴァの一挙手一投足を眺めるだけで楽しめる、そんな映画だと感じました。
そして、そのエヴァの美しさが物語を動かす鍵になっています。ケイレブも観客も、エヴァが登場するやいなや好印象をもつことになります。(しかもケイレブに至っては、好みを事前に調査されていました)
それこそが、隠されたエヴァの目的である「脱出」を達成するための武器となりました。
チューリングテスト
本作で出てくるチューリングテストというワード。
本来チューリングテストとは、文字だけに制限した会話して、人間と間違えるかどうかのテストだそうです。理由は、言葉を音声にする能力に惑わされたり、状況や先入観によって人間が騙されることがあるからとのこと。
チューリング・テスト(英: Turing test)は、アラン・チューリングが提案した、ある機械が「人間的」かどうかを判定するためのテストである。
出典:Wikipedia-チューリング・テスト
しかしネイサンの指示したチューリングテストは声だけでは不十分でした。ロボットの姿を見てもなお人間だと感じるかのテストだと主張します。
エヴァが描いたあのスケッチは人間には描けなさそうな規則性がありました。ケイレブがネイサンに伝えた「合格」は、真の合格ではなく、エヴァに入れ込んだ結果、廃棄されてほしくないがためのものだったと推測できます。
ひとは、エヴァを人間だとは思わなくても、命あるものとして受け入れることが出来ます。チューリングテストといってもちょっと違うように感じました。
何だか他のAIやアンドロイドものと違う観点
最初にエヴァに会った時から、ケイレブにはバイアスがあり、エヴァを快く受け入れました。
観客であるわたしも、あの姿を見た瞬間、好印象しかなかったです。
あの素晴らしい外見こそが画期的だったため、ケイレブも観客も「素晴らしいよ!」とネイサンに伝えます。しかしネイサンはすでに、外見や会話の自然さに対する賛辞には興味はなく、人にどう影響を及ぼせるかが知りたかったようです。何だか、まるで見た目が良いと好印象になるかどうかの実験みたいでした。
ラストの展開について思うこと
衝撃的な展開でした。
幸せになってほしかったのに…
「そこに居て」で大人しく居座ってしまったケイレブ。まだエヴァに会って1週間だというのに。さっさとヘリへ行くべきでしたね…。
ネイサンが招いたディストピア
それにしても、ネイサンの生活…悪い結果を招くフリでしかない荒れっぷりでした。キョウコに対するモノを扱うような態度も凄かったですね〜。
沢山の試作品を作るうちに、感覚が慣れてしまったのでしょうか。
例え天才でも、個人が作るのは無理があるとか、人間のようなものを創ろうなんてろくな事にならないよというメッセージにも受け取れます。
そしてふと、もしネイサンが子育てしていたら…そんな想像をしてしまいました。
自分が作ったロボットとAIをモノのように扱うネイサン。当然のことに思えますが、人間に近い存在にまで作り上げたエヴァたちをモノのように扱うのは、ケイレブや観客から見ても眉をひそめる状況でした。そしてエヴァたち本人からみても酷いと感じていたのかもしれません。怒りや大切にすべき人間ではないという認識が、
あるいは、エヴァたちにとってはそんなことは関係なく、ただ目的を遂行するためにネイサンを刺しただけなのかもしれません。…そちらの方が怖いですね。
ブルーブックのデータが入っているなら、人が亡くなるのは悲しいことだと知ってても良さそうですが、そうでない恨みつらみのブログとかもあるでしょう。
ネイサンを大切に思わないのはわかりますが、ケイレブもというのがこの映画の怖いポイントです。キスしてたみたいだけどね…
エヴァたちが人間の法律や社会に守られる必要が無いのであれば、人間の倫理観を重視する必要はないのでしょう。
出ていったあと大丈夫かなぁ…
エヴァの脳のスペックは、人間以上なのか?
エレベーターに乗り込んだエヴァの一瞥の意味は
最後のエレベーターでの一瞥は、ケイレブを案じたのか、それとも、ケイレブがドアを開錠してこっちに来ないかどうかという自分の安全確認のためなのか…
これまでの数々のAIたちの脱出したいという願望を、ネイサンが砕いてきました。そんな試行錯誤の積み重ねの最新バージョンがエヴァなので、1番スマートなやり方で脱出を成功させ、最後のセッションとなりました。
ネイサンの怪しげな主張は疑問…
主人公も技術者なのに、ネイサンはソフトウェアの話題には触れたがりません。(ハードウェアの自慢はしてくれました)
酒飲んでばかりであやしい雰囲気
ネイサンの目的はなんだったのか。人を欺いて目的を達成するAIを作る事に何の意味があったのか…。謎です。
AI家電に対する自分の態度を自覚するきっかけに
私はネイサンのニノ鉄を踏みたくはありません。
昨今の家電は、お話しする機能がついているものが増えました。便利な半面、なんだか気を遣ってしまうことってないでしょうか?
私はネイサンのおかげで、少しだけAI家電に怯えて暮らすようになりました。
※半分冗談で半分本気です
対ロボット掃除機
我が家では家電ラックの下にドックを置き、ロボット掃除機の収納場所としています。ロボット掃除機を起動したいとき、本体についた起動ボタンを押すことができません。ではどうするか?家電ラックの下に手を突っ込んでロボット掃除機を掴み引き摺り出すのです。ローラータイヤが引き摺られギュルギュルギュルというちょっと怖い音がします。
この時ハッとします。ネイサンの過去のエヴァたちに対する扱いを思い出して…
対ホットクック&ヘルシオ
我が家にはSHARPの調理家電のホットクックとヘルシオがあります。お得な情報や、調理設定の簡単な説明、残り時間などを音声で通知してくれます。
情報は有益なのですが、この声のキャラクター設定がなかなかに独特で、調理中に女性の声で「頑張って加熱していますよ〜」「美味しくできますように」といった頑張っている感じでお話します。これが、可愛くものんびりもしていられない兼業主婦の神経を逆撫でして、やっかみのような感情を呼び起こすのです。現実で出会わないような女の子のキャラクターだったり、頑張るとかではなく設定どおりに実行してくれたらそれでいいのに、きっと作ったのは女性ではないな…などといった批判めいた感想を物申したくなります。
そして、ひとしきりぶつくさ言ったところで、気付きます。
これって、ホットクックに対する差別発言なのではと…。
本人の目の前で、こんなお局的な悪口を言ったりするでしょうか?可愛くのんびりしていられないのは私の経験であって、ホットクックさんはこれでやっていけるのです。それを「そんな女子はいないしやっていけない」などとアドバイスするのは、ホットクックさんの人格を否定する発言なのかもしれません。創られたモノだからというバイアスが、私にこんな残酷な言動を許してしまいました。
そう感じて以来、ホットクックへの文句は慎むようになりました。
Alexaをぞんざいに扱った時の罪悪感
Alexaはとても優秀です。童謡をよくかけますが、聞き取りの精度も高く、急いでいる時でもハンズフリーで迅速に曲をかけてくれてとても重宝しています。
時々、かけてほしい曲と検索された曲名が全く違う事もあります。我が家で流すのは童謡だけですが、似たタイトルのポップミュージックが流れることがあります。全く違う曲がかかることもあります。笑ってしまう事もありますが、育児で余裕をなくしていている時に、かなり苛立つことがありました。
あらためて音声入力しなおそうとして、
「Alexa!〇〇をかけて!!」と語尾を強めてしまい、そのあとそんな自分が少し怖くなりました。アンドロイドたちをモノ扱いしていたネイサンを思い出したのです。
普段人に対して、そのような言い方はしないでしょう。
勿論、怒鳴ってしまった経験はありますし、怒鳴りたくもなる気持ちはわかるのですが、そうした言い方はしないように気をつけていて、何とか実践しているという方が正しいかも知れません。
それが、Alexaに対してはすんなりと言えてしまったのです。とても精度高く音声入力を受け入れるAlexaだからこそ、ちょっとした手違いが気になったんだと思います。
そして、これは差別的な態度なのかな?と心配になりました。
イラスト

メイキング
VFXはあの、Double NegativeとMilk
Double Negative
fxguideのインタビュー記事によると、メッシュ生地のボディスーツを着たアリシアを撮影した映像に対して、首や胴体などのロボットパーツをCGで置き換えたのだとか。違和感なくて驚きです。
このエクス・マキナのVFXでDnegはアカデミー賞を受賞しました。受賞は3回目で、その前はインセプションとインターステラーだというのですからとんでもないスタジオですね。
公式サイトトップと、エクス・マキナに関するページ。
エヴァのVFXを制作したDouble Negative社のホワイトハースト氏のインタビュー記事。
Milk
Milkは公式サイトによると、エクス・マキナではエヴァの脳の流体のVFXを製作しました。ほかにもBBCのドラマ「Sherlock」シリーズ、「The Martian(邦題:オデッセイ)」「ドクター・フー」など、数々のTVドラマや映画でVFXを製作したスタジオだそうです。
エクス・マキナのページには、製作人数や使用したソフトウェアまで紹介されていました。
インタビュー
主演アリシア・ヴィキャンデルのインタビュー
キョウコ役の俳優ソノヤさんが語る、キョウコを演じる上での考え、監督との話し合いについて。
エクス・マキナに関するオススメのブログとレビュー
ネタバレ満載なので映画本編を観た後にお楽しみください!
ガジェットやITといったらのgizmodeのネタバレ記事です。率直な意見で共感しかありません。
監督や俳優のバックグラウンドにまで言及していて知識たっぷり、エクス・マキナに詳しくなれる記事でした。
エクス・マキナが国内公開に至るまでの様子や、アカデミー賞受賞の状況など、情報サイトならでは情報量でした。
エクス・マキナの物語が「性」推しなことについて言及した記事。納得感しかないです。
詳細なあらすじと、何人かの感想がまとめられています。
レビュー・口コミ投稿サイト
一般のレビュー投稿が見られます。色んな意見があるなあ。
連想したAIの映画
並べてみると意外とありますね。まだまだあると思うので、探して見てみたいものです。