[パラサイト]韓国に学ぶ・格差の当事者たる私達に出来る振舞い : 映画のイラストと感想

「パラサイト 半地下の家族」は韓国のポン・ジュノ監督によるアカデミー賞受賞作品です。国内のTVでも放映されました。
現代の韓国を舞台にしながらも「韓国映画」といったいちジャンルの映画を観ている感覚はなく、まさに時代を象徴するエンターテイメント作品だと感じました。
とにかく面白くて引き込まれ、スリリングな展開に目を覆い、そしてなんだか考えさせられました。

この記事ではそんな「パラサイト 半地下の家族」の

  • もの凄い主観的な感想(ネタバレ)
  • イラスト(ネタバレ)
  • 関連動画
  • ポン・ジュノ監督の他の作品

をまとめました。ネタバレ満載なので、もしまだ観てない方は、是非本作品を鑑賞していただきたいです!

目次

作品情報

公開:2020/01/10(日本)
監督:Bong Joon Ho ポン・ジュノ
出演:
Kang-ho Song ソン・ガンホ(キム・ギテク)
Sun-kyun Lee イ・ソンギュン(パク・ドンイク)
Yeo-jeong Cho チョ・ヨジョン(パク・ヨンギョ)
Woo-sik Choi チェ・ウシク(キム・ギウ)
So-dam Park パク・ソダム(キム・ギジョン)
Lee Jeong-eun イ・ジョンウン(ムングァン)
Cang Hyae-jin チャン・ヘジン(キム・チュンスク)

あらすじ

全員失業中で、その日暮らしの生活を送る貧しいキム一家。長男ギウは、ひょんなことからIT企業のCEOである超裕福なパク氏の家へ、家庭教師の面接を受けに行くことになる。そして、兄に続き、妹のギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…この相反する2つの家族の出会いは、誰も観たことのない想像を超える悲喜劇へと猛烈に加速していく。

出典:iMDb

感想(ネタバレ)

導入がコメディなのが秀逸
楽しく引き込まれました。無料Wi-Fiを探して部屋中動き回ったり、街路の消毒の時に窓をあけたままにしてついでに家の中を消毒しようとか、劣悪な環境の中で妙にたくましく暮らすキム一家に親近感を覚えました。
しかも、この面白おかしいテンションも前フリになっているのが凄いです。

後半に向かうにつれ、雲行きが怪しくなり急激にサスペンスタッチになって、エンディングでは深く考えさせられる。
そんな、結末までずっとテンション高く見られた映画でした。

いちばん強く印象に残ったのは、やはり格差ですね。
それも、単純な対立構造ではなく、登場する裕福さの違う3種類の立場の家族それぞれに自分を投影して考え込んでしまいます。まさに時代を代表する映画だなと感じました。

純粋に面白いから当然ですが、なぜこの映画がヒットしたんだろう?背景は?見たひとたちはどこに共感したの?とちょっと気になる深い内容でした。

3つの家族、3つのポジション

裕福さの異なる、本来なら出会うはずのない3つの家族。彼らが交わることによって、起こるはずのなかった悲喜劇が起こります。特に最後の惨劇の場面では、3家族とも無傷では済まず、誰もが被害者であり加害者になってしまいました。

パク家はかなりの富裕層、キム家はかなりの貧困層、地下の住人は存在すらしない者として生きている、それぞれが極端に違う暮らしぶりです。
にも関わらず、どの家族も、わたしにとって他人事とは思えない部分が多々あり、教訓と言えるべきものがありました。

「私たちの中のパク一家」の恐怖

ラストの惨劇の被害者であるパク一家は超大富豪ですが、果たして私たちと全く関係の無い話でしょうか?

パク家は、家事を任せるための住み込みの家政婦と、車の運転手と、家庭学習の為に家庭教師を2人雇っています。

…と聞くと、遠い世界の話のように感じます。
ですが、個人でここまではいかなくとも、私たちも、自治体サービスや企業、外国製品も含めて多くを他者に依存する前提で生きています。
あらためて、多くのことを社会に依存して生きている事を実感すると同時に、もし失ったら?彼らにNoを突きつけられたら?という潜在的な恐怖感があることを再確認させるのがこのパク一家だと感じました。

例えばですが、
医療や農業や土木建築や、到底自分では出来ないことは当然ですし、経済的な効率を重視すると、収入を増やすために生活に必須な部分や不得手なことを外注する場面は増えていくでしょう。

料理する時間を他のことに当てたければ外食をしたり、宅配の食事、食材の配達も依頼できます。コロナ禍で外出を控えれば、日用品も配送してもらう事になります。
育児においては、保育園に子供を預けて仕事をする親もいますし、スポットでベビーシッターを頼めるサービスもあります。
お掃除のプロに家に来てもらうことも出来ますし、着終えた服を送ると洗濯して畳んで返してくれるサービスもあります。お金に余裕があり時間が足りないと感じている人なら利用するはずです。

また、エッセンシャルワーカーといった、ライフラインに関わる職種、直接ひとの職種の重要性は、パンデミックでより浮き彫りになりました。

「私たちの中のキム一家」の絶望

パク家のような「雇用主(資本家)」に対して「雇われる立場(労働者)」なのがキム一家です。キム一家には、会社員やアルバイトなど、自分の労働者としての経験を重ねやすいと感じました。

パク一家がキャンプへ出かけた夜に我が物顔で宴会をするところから、キム一家の転落は始まってしまいます。
物語の結末を見るにつけ、いまの職場に恵まれたチャンスを活かして、次への備え、投資を出来ていたら…と思わずにいられません。そこまでの給料は支払われていなかったのかも知れませんが…。いち労働者をここまで過酷に描くのか、と絶望感でいっぱいになりました。

キム一家は経歴詐称して入り込んだとはいえ、パク家でそれなりの成果を出して信頼を得ました。みな善良で、能力があり、働き者なのです。
しかしながら、観客をヒヤヒヤさせるのは、キム一家の無知とも言える言動でした。

パク家に勤める人々はみな必要とされています。ですが、基本的に替えのきく存在であるとドンイクは明言しています。
反面、ギテクは、富裕層であるパク家との間に深い隔たりがある事や力関係を、物語後半まで本当には理解していませんでした。いつしか勤め先の立場に慣れて安泰だと感じ、雇われているだけと言うことを忘れて、現在の立場を自身の当然の姿であるかのように錯覚しはじめます。

友人になれるかのようにドンイクに語りかけるギテク。ドンイクは不快感を表します。個人の主義主張だからと仕方ないと言えますが、解雇されては困ると考えている時点で、ギテクの立場は弱いのです。

また、努力をし報われたと思っているキム一家にとって、ムングァンと夫のグンセは不都合な存在であり、不快感を覚える存在でした。2人は努力だけではどうにもならない不運や無知により地下へ落ちたに過ぎず、少し前までキム一家と似た立場だったにも関わらず。なのに、チュンスクはムングァン達を強く批判しました。
パク家に関わる暮らしのなかで、特権意識のようなものが芽生え、同様の弱い立場だという真実を忘れてしまったかのように見えました。

最後のシーンで長男のギウは、頑張って働いて、将来、パク一家の住んでいた豪邸を買いたいと言います。
まだ社会に出ていない若者らしい夢ともとれます。しかし映画のラストに漂う切ない雰囲気が、おそらくそれが叶わないということを物語っています。旧パク邸は給料で買える金額ではないのでしょう。
それでも、事業で成功するなどしていつか購入する事を願わずにはいられませんでした。

私の中のリスペクトおじさん

何だか突飛なキャラクターのように見えるリスペクトおじさんことグンセ。
普段忙しく過ごしている私のような兼業主婦でも、ふと似た感覚を覚える事があります。

ひとつに、特にコロナ禍で外出もしない今、お金を使わずにただ生きることも可能だな…と。

もうひとつは、これ以上稼ぐための努力を続ける事に疑問を感じる自分です。
幼い子供がいると、お金は大事ですが、お金だけでは助けにならないこともわかりました。非常事態には尚更で、人と距離をたるために、人に頼れず自宅で自分で家事育児をしなければいけません。その時に、例え収入が下がったとしても、1日を仕事で手一杯にするわけにいかない事に気づきます。

社会保障の恩恵と職場の助けを得ていると、「リスペクト!」と叫び出したくなる気持ちがわかりました。

悲しい結末を避けたかった

貧富の差を描いた映像作品として、このパラサイトにはいわゆる悪人が存在しない構成になっています。
レジスタンスが出てくるような映像作品であれば、体制や富裕層が憎まれるような構図になっていますよね。ですが、パク家は特段「憎んで打倒すべき金持ち像」としては描かれていません。キム家もグンセも、普通の善良な市民です。

だからこそあの結末の惨劇は、印象的に残るものだったとともに、2度と怒って欲しく無い、そんなふうに思いました。

パク一家は殺されて当然?もちろん違う

むしろ、お金持ちや有名人など影響力を持つ人に対する期待を背負った、息苦しさを表現したキャラクターのように感じました。

お互いの立場をよく知ろうとし、自身の環境に感謝し、人としての根幹となる尊厳は守られなければならず、より持てる者はより自覚すべきだと社会的には考えられている。たとえ人目が無いところであってもお金持ちとは人格者であることを求められている
そんな風潮のあらわれのように見えました。

社会で生きていくうえで、誰かを見下したような言動をすることはリスクであり、単純に周囲の気分を害するだけで済まないのかもしれないことを、パク一家は理解していたはずです。

確かにパク夫妻は、雨の夜のリビングで、富裕層でない人々に対する配慮のない言動をしました。
ただ、本来出会っているはずのない貧困層についての意見を、クローズドな家庭内で言いました。それを聞いたギテクたちも、身分を偽り自ら潜り込んだのであって、あくまで盗み聞いただけです。
匂いに対する反応も、生理的なものだから仕方ないとも言えます。パク夫妻も、目の前に当事者がいたら決してしない発言でしょう。

キム ギテクには殺すしか解決策(?)がないのか

映画のラストにおいて、ソン・ガンホ演じるギテクの起こした惨劇は到底許されるものではありません
そこは大前提としながらも、この結末についてしばらく考えさせられました。

ラストに向かい緊張感が高まるなかで、ギテクが追い詰められてしまう要因が「色々重なった」ように描写されています。

私はこれらの描写を見て逆に、「ではもしパク夫妻がこれまでに、配慮ある発言をして、洪水の直後に寄付やチャリティなどしていたら、このような悲劇にはならなかったのかな?」と想像してしまいました。

そしてそれならよかったのだろうか?いや、それは違うと感じました。

今回のように色々と重なって初めて不公平に気付くのではなく、色々と重ならなくても、キム一家の尊厳が守られる環境があって欲しいですし、何があったとしてもパク・ドンイクを刺したりしないで済む、そんなギテクあってほしかったです。

この貧富の差にキム一家が疑問を持たない構図、格差を直せない政治に、憤りを感じました
そもそもはキム一家の抱えた、住居や進学や就職の問題を解決してほしいものです。

…などとここまで入り込んで考えて、パラサイトのメイキングやインタビューや授賞式の動画を探し「あ、この人たちセレブ俳優なんだよね」と自分を安心させる作業に入りました。そのくらい夢中になれる映画でした!

イラスト

相互依存
どの登場人物も魅力的すぎて、詰め込んでしまいました。

韓国について気になって調べたこと

キム一家が表す韓国の社会課題

実は私は韓国についてよく知らずに観ましたが、共感できる部分が多く面白かったです。ですが、調べてみると想像よりも一層深刻な現実がわかりまました。

  • 2020年 韓国の出生率0.84/女性一人当たり
  • 住宅が高い
  • 受験戦争が過酷で塾代がかかる
  • 就職難。実質的に失業している若者は26.8%(2020年)

映画のキム家が直面している住居と進学と就職の問題は、韓国の社会問題のようです。決してキム家が怠けているわけでも能力が低いわけでもなく、むし能力は高いのに失業している理由がわかります。

興味深い解説動画

韓国映画パラサイト聖地巡礼!アカデミー賞作品が描いた格差社会のリアルを見てきた!【PARASITE|Reporting the disparity society in Korea】

トレーラー

映画『パラサイト 半地下の家族』メイキング映像

ポン・ジュノ監督の他の作品

スノーピアサー

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