[メッセージ]どんな未来にも絶望する必要なんかない:映画のイラストと感想

「異星人との交流と言語」に焦点を当てた異例のSF映画

フランスのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による作品で、アカデミー賞多数部門にノミネートされました。他にもブレードランナー2049、大ヒット「DUNE砂の惑星」も手掛けており、今まさにトップを走っている監督と言っても過言ではありません。

  • 派手さはなくともリアリティがあって骨太なSF作品を楽しみたい時
  • 雄大な美しい映像と音楽に浸りたい時
  • 将来への不安から、行動を起こせなくなっている時

こんな時に、一度ならずたびたび見返したい作品です。
そんな「メッセージ」のネタバレ感想とイラストを書きました。

視聴はこちら

メッセージ(字幕版) | Prime Video : Amazon.co.jp

目次

作品情報

題名:メッセージ(原題:arrival)
公開:2017年5月19日(日本)
監督:Denis Villeneuve
出演:
Amy Adams(ルイーズ)
Jeremy Renner(イアン)
作曲:Jóhann Jóhannsson

参考

トレーラー

ARRIVAL | Official Trailer
アカデミー賞8部門ノミネート 映画『メッセージ』予告編

あらすじ

突如地上に降り立った巨大な宇宙船。
謎の知的生命体と意思の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、物理学者イアン(ジェレミー・レナー)とともに、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていく。
そして、その言語の謎が解けたとき、彼らが地球にやってきた驚くべき真相と、人類に向けた美しくもせつないラストメッセージが明らかになる――

出典:Amazon.co.jp

感想

本作の魅力は、異星人との交流というとんでもない物語でありながら、骨太でリアリティあるSFだという点です。
現代を舞台とし、物凄いテクノロジーを持つのはあくまでも突如飛来した異星人のほうです。物理的に過去や未来などへ時間を移動するわけでもなく、宇宙人と戦うこともありません。
しかしその分、「もし実際にこういう状況が起きたらこうなるのかもしれない」…といった説得力があります。なぜなら、実際に起こる現象の延長線上かのようにとても巧みに描かれているからです。

主人公は言語学者で、キーとなるのは言語
突如出現した異星人と直接交流するのは言語学者であり、平時には教授をしている一般人です。

映画の定番としては、軍が異星人に対応し、戦闘を始めることでしょう。しかし本作はそうではありません。軍は勿論出てくるものの、あくまでもバックアップの立場をとります。解決すべき問題となるのは、相手が何もしてこないこと、友好的かも不明なこと、何を話しているか分からないこと
そこで教授や学者たちが招集されるのです。
なんとも今までありそうで無かった展開に冒頭から胸が熱くなりますね!

そんな独特の観点をいくつも持つこの作品のなかで、とくに魅力的な4点について感想を述べていきたいと思います。

  1. 特徴的な演出
  2. 作中でキーになる「言語」について
  3. この映画のテーマに共感出来たポイント
  4. 原作小説

特徴的な演出

異星人との交流のため、彼らの言語を解析し習得していく主人公ルイーズたち。
その言語が、いかに私たちの言語とかけ離れていて、いかに高次元なものなのか。
それを表現する事がこの映画の主軸であり、うまく映像で説明してくれています。だからオチに向かうにつれ、「なるほど」と「そうだったのか!」という心地よいやられた感と悲しみをもたらすのです。

誤解を誘う構成で見事に誘導する演出

ルイーズの家
まるで余生を送っているかのような素敵な海辺の家で過ごす主人公ルイーズ。広いことと庭付きなのも相まって、ファミリー向けの戸建てといった雰囲気。
独身なら都心のコンパクトな家に住むはずという固定観念と、回想のようなルイーズと子供との記憶のシーンを逆手に取られ、この家が「ルイーズは既婚者」だという印象を与えています。「やられたー」と思いました。

「思い出す」ように挿入される未来のシーン
冒頭から、ルイーズの現在とは別の「回想シーン」のようなものが幾度となく挿入されていきます。観客は、ルイーズがふと思い起こしているのかなとか、物語の前提としてルイーズの紹介をしているシーンなのかな、といった感じでルイーズの過去としてありのままに受け入れます。
しかしこれが驚きの結末で、異星人の言語を理解したルイーズの起こりうる未来の記憶だった、という演出なのです。初見でそれとはわからないようになっています。

未来を「思い出す」ってどんな感覚だろう?
そう思ったときに浮かぶのが、私にとっては全身麻酔をした時でした。麻酔が切れた直後は色んな記憶が浮かんでは消え、考え事をするつもりでも現実と空想が入り乱れた思考がとめどなく続きました。これは非常に辛く、脳が暴走したみたいでした。
後半、ルイーズに押し寄せる、息が上がりめまいを覚えてよろめくほどの制御不能な記憶。どれも身に覚えのない子供や、配偶者と過ごした生活の記憶など、まるで無根拠に思える記憶に振り回されるのはさぞ辛いだろうなと想像したのでした。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監  督の映像は特徴的で美しい

SF派手さがないヘプタポッドの文字がかっこいいとにかくいいムードなんですよね。

雰囲気は映画「コンタクト」に似てる

テクノロジーと宇宙に深く関わると、地球の常識と違いすぎてまるでオカルトとの境目があやふやになったような表現になります。既存の感覚では理解されないので当人以外から疑われる

コンタクト(字幕版) | prime Video : Amazon.co.jp

作中でキーになる「言語」について

物語の前提 サピア=ウォーフの仮説

物語のキーになるのは、言語学者サピア=ウォーフの仮説。新しい言語を覚えることで人間の思考にも影響を及ぼすという、仮説段階ではあるもののれっきとした実在する説なのだそうです。これが本当に無さそうでありそうで、リアリティある仕掛けになっていて面白い!

原典をあたるには難しすぎたため、こちらを参考に勉強しました。勿論こちらを読む前に本編を鑑賞しましたが、問題なく楽しめました。

「時間」の概念のない言語を使う人々もいるらしい
時間が流れていく、という概念のないヘプタポッド
高次元の存在

「言語と時制」については、2歳児と過ごしているときに意識させられます。言葉を覚えている途中なため、一つずつ言葉を覚えながら世の中の現象に名前をつけていく作業に立ち会っているようなものです。
そもそも記憶というのは、浮かんでは消えていくものだと常に感じます。おやつをねだって席に着く途中で「あ!電車(のおもちゃ)忘れちゃったから探しに行こう」と踵を返すなど、頭に浮かんだままに話しているかのようです。
そこへ大人は「いつ」という概念に当てはめて記憶を整頓しています。しかしまだその概念が無い子供は、1週間以上前の出来事をまるで今起きたかのように「おもちゃのここが、ガシャーンて壊れちゃった!」なんて話します。
だからと言って、未来のことを言い出すことはありませんが(恐らく!)、時間の概念をまだ知らないため、過去の記憶にも時系列が割り当てられていないようです。

ヘプタポッドの文字ってスタンプや絵文字みたい…

LINEやmessengerなどのチャットツールで使えるスタンプ(あるいは絵文字)は、いろんなことを瞬時に視覚的に伝えられます。
たくさんの種類がありますから、スタンプに含まれるイラストの微妙な表情や動き、文字との組み合わせを使い分けて、感情を表現したり状況を説明できます。更には使う文脈によっても意味は変わるでしょう。
そして、それらスタンプ自体には時系列は無く、対応する「言葉」や、正しく1:1の意味で説明出来るような文章はありません。送る人と見た人との間にある記号に対する共通認識や、自分の中にある文脈によって総合的に理解します。

これ、ルイーズたちが解明したヘプタポッドの文字の特徴の一部と似ていません?

普段私たちもスタンプを使いこなしているからこそ、ヘプタポッドの文字の不思議な概念とその凄さをすぐに理解出来たような気がします。

この映画のテーマに共感出来たポイント

卓越したビジュアル表現の美しさ、骨太なSF設定に惹かれて見始めた本作でしたが、思いのほか主人公のルイーズに感情移入することになりました。

冒頭の場面で、赤ちゃんの手を握るルイーズ。赤ちゃんが産まれて喜ばしいはずが、不安や悲しみが入り混じったもの悲しい表情。

初めは「ルイーズの過去かな」という感じで、何のことやらわかりません。しかし物語終盤で、この場面こそがルイーズの将来だとわかります。

ヘプタポッドの言語をマスターすることにより、ルイーズは自分とイアンと娘のハンナの将来を「不安に思う」どころか、「知って」しまいました。しかし、それでもイアンとの未来へ向かって踏み出す事をやめませんでした。ルイーズにとって、「将来」は結末や目的ではなくなりました

「将来」を目的とするのではなく、イアンやハンナと関わりを含めた自分の人生の「今」を生きることを決めたのです。その決断は、未来に不安を抱く私の目にも力強く映りました。

「将来への恐怖」は、子育てとセット。

私自身、実は、子供を持つ前にこんな不安を抱いたことがありました。

  • 多大な手間暇や愛情というコストをかけたとして、子供がもし死んでしまったらどうしよう。
  • 健康に育たなかったらどうしよう。
  • 教育は?金銭的には?夫が働けなくなったら?
  • すべてを受け入れる余裕がないのなら子供を持つべきでないのではないか?
  • そもそもリスクが大きすぎるのでは?

この不安の裏にあるのはなんだろうと思いました。
そこで思い至ったのが、もしかしたら「子供をもつのは”将来”のためなのだ」という考えが不安を引き起こすのではないか、という考えでした。
その「将来」とは、子供を健康に産み立派に育てあげることや、その先に利益を得るといった「将来」です。

ルイーズの選択に共感し勇気が出た

そのうち私自身、歳を重ねるうちに、成熟し経済的のみならず精神的にも自立してきました。「子供を持ち、子育てに成功しなければまずいことになる」といった不安はなくなり、残ったのは「私は子育てをしてみたい」という好奇心と、その先はわからないのだという達観した気分でした。
そして、えいやっで子育てを開始すると、想像していた以上に「不安のために躊躇する」という事はありませんでした。「今」子供を生かすことの大変さが凄まじく、その先なんて考えられなかったのです。常に「自分がこの場を離れたら死んでしまうかもしれない」「呼吸を確認しに寝室へ行く」といった生活が続きます。命を守れていることこそが奇跡のような感覚になり、映画の冒頭でルイーズがもの悲しそうに子供をあやす気持ちがわかるような感覚になりました。
だからこそ、結婚をして子供を持つというルイーズの決断に感動したのでした。

もしここまで大変だと事前に知っていたら、子供を持とうと思えたでしょうか。それは分かりません。
徐々に手はかからなくなり、子供の成長を楽しむ「今」こそが目的だったのだと改めて理解しました。

与えられた人生の中で今を大切に生きよう

この映画の後、ルイーズの著書を読みヘプタポッドの言語を理解した人々が暮らす世界はどんな世界になるのでしょう。

私たちは誰もが死ぬ事が確定しています。寿命かも知れないし、事故や病気かも知れません。それでも私たちは人と関わり、いろんな事を成そうとします。

人生は不確実なことに溢れています。目的を達成する為に「今」を犠牲に生きるのではなく、「今」に集中することこそが人生なのだと感じます。

イラスト

すりガラスの向こう側のルイーズ

原作小説

あなたの人生の物語 テッド・チャン 著

娘に語りかけた過去のような冒頭。しかし現在形のような未来形のような文法で描かれていて違和感がある。不思議な雰囲気の文体だなあくらいの感じで読み進めるけど、実は過去の記憶でも未来予測でもない、「未来を思い出して」語っている。

映画版との違い

ひとつひとつ検証していく様子が描かれる。

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